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夜鷹④

 低い木の枝に身動きもせずヨタカは止まっていた。目の前には見知らぬ風景が広がっていた。どのくらい飛んだのか憶えていない。
 腹は立たなかった。悲しみもなく、不思議な気分がした。ただ自分の存在がひどく頼りなく思える。
 ヨタカの目の前を小さな羽虫の群れが通りかかる。その様子を眺めていると声をかける者があった。
「食べないのかね」
 いつの間にか近くの木の枝に、年老いたフクロウがいた。
「お前さんの餌がすぐ目の前に飛び回っているのに、なぜ食べない」
「気の毒だから」
 ヨタカはつぶやくように答えた。
「ホホッ。気の毒とな。腹が減れば食う。それはわしらが生まれて考えるよりも前に身につけていることだ。そんなことならはじめから生き物など存在せんわ」
「ぼくはたくさんの虫たちを食べてきた。でも、ぼくには虫を殺してまで生きていく資格なんてない」
「今度は生きていく資格か。ホッ!なかなか小難しい理屈をいうヨタカだわい。お前さん、そんな資格があると思っているのかね。あるとしても、誰が一体その資格を与えるんだね」
 ヨタカが黙っていると、突然フクロウは地面めがけて急降下した。
 野ネズミを捕らえようとしたが、寸前、野ネズミは体をかわし逃げていった。
「えーい、口惜しい!年はとりたくないわ」
 ふとヨタカの目にフクロウの姿とタカの姿がだぶってみえた。自分よりもずっとタカに近いと思った。
 フクロウは呼吸を整え、ヨタカのいる木の枝に止まった。
「とにかくお前さんは生きていく希望はないわけだな。なにがあったか話してみい。どうせ飢え死にするのなら年寄りに身の上話をするのも悪くはないだろう」
 ヨタカはこれまでの出来事を話した。フクロウは時々、ホッホーと相槌を打ちながら黙って聞いた。ヨタカが話終えると、フクロウは目を閉じた。強い風がヨタカ達の間を吹き抜けていった。フクロウは目を開き、ヨタカに尋ねた。
「お前さんは、悪く言う鳥たちと、みにくいこととどちらがいけないと思う?」
 ヨタカは考えたが答えが思い浮かばない。さらにフクロウは続ける。
「誰よりも、みにくいことが疎ましい、ゆるせないと思っているのは、当のお前自身ではないのかね」
 思いもしなかった言葉だった。
「そんなことは・・・ない!」
「そうかね。さっき生きていく資格と言ったな。それを決められるのは自分だけだよ。お前さんは、自分で自分を価値のないものにしてしまっているのではないか」
「あんたに何がわかるもんか!」
 飛び去るヨタカをフクロウは黙って見送った。

 いつしか空には暗く厚い雲がたちこめていた。
 一粒、二粒、雨が落ちたかと思うと、たちまち滝のような大雨となり地上に降り注いだ。強い風がうねりをあげ、木々は狂ったように枝や葉をざわめかせる。森のすべての生き物たちは、この凶暴な襲来者が去るのをじっと待った。
 ヨタカも木の枝にしがみつき風雨に耐えていた。

 バキッ。
 
 その枝が折れてしまいヨタカは数十メートル飛ばされ、そのまま地面に叩きつけられた。 
 

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