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虫愛づる姫君

この姫君を最初に知ったのは、10年ほど前に「風の谷のナウシカ」原作第1巻のあとがきを読んだときだ。作者の宮崎駿がナウシカのモデルの一人として紹介していた。平安時代に虫ばかりをかわいがる姫君とは、なんて風変わりなと、ちょっと興味を持っていた。で、先日読んだ「陰陽師 龍笛ノ巻」(夢枕獏作)のなかに、その「むしめづる姫君」が登場する短編が載っており、あらためて興味を憶えた。
原作では一体どんな人物なんだろうと、読んでみた。

11世紀から14世紀にかけて執筆された短編を集めた「堤中納言物語」のなかに「虫愛づる姫君」の話が収められている。作者は不明だが、文体から男性の作ではと言われている。
内容はとあるお屋敷に、当時の常識であった眉毛も抜かず、お歯黒もせず、白粉もぬらず、その一方で子供達に虫を捕まえさせては(それも蝶ではなく毛虫の類)、それを観察ばかりしている風変わりな姫君を巡るドタバタを描いた、今風に言うとラブコメタッチの物語だ。
この姫君の語る言葉が面白い。
「人々が蝶や花ばかりもてはやすことは、無意味でばかばかしい。誠実な心で、物の本質を追求することこそ、趣がある」
「人が装いつくろうことはよくない。ありのままの姿がいい。お歯黒なんて汚らしいし煩わしい」
「気持ち悪い毛虫を面白がっているなどという風評はまったく幼稚で愚かしい。その毛虫が蝶になる。根源を尋ねればこそ、物事の因果関係も理解できる」
哲学者風にして、平安時代とは思えない現代的な言動。
でも、お堅いばかりの姫君かと思いきや、作り物の蛇を本物と思い「ナムアミダブツ・・・」と、慌ておののく姿も。

今でこそ非常に進歩的な女性だった思えるが、物語が書かれたのはなにぶん平安時代。
常識はずれで変な姫君として、あくまで笑いの対象として描かれている。
また現代の研究では、姫君は性格異常者だった、という説もある。
でも姫君は、格式ばった平安の時代にあって、物事に囚われない純粋な感性を持っていたと思うほうがロマンがあるし、そのほうが遥か遠い時代が、身近に感じられる。
宮崎さんも言っているが、もしこの姫君に実在のモデルがいたなら、その人物はどんな人生を送ったんだろう。
いつしか社会の常識に取り込まれていったのか、いつまでも虫を愛づる感性を持ち続けたのか・・・。


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コメント

学生の頃,やはりナウシカから興味をもって,「虫愛づる姫君」を読みました.古典にしては,分りやすく,読みやすく,面白かった記憶があります.
現代でも,虫に熱中する女性は微妙ですが(不機嫌なジーン?),当時実在したとしたら,どんな人生を歩んだのでしょうね.

投稿: ヒロ子 | 2005/04/11 19:21

いつまでもあの感性のままでいて欲しいですね。

古典はどうしても文章がとっつきにくいですが、口語訳を読むと意外と面白かったりします。
某受験マンガに出てくる先生も、「古典を勉強するなら、マンガ版を読め!」と言っています。

投稿: ぽうせ | 2005/04/12 00:57

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